シンポジウム隅藏康一先生分
第1回研究問題メーリングリスト・シンポジウム その2
2000年3月4日(土)13:00~17:30 「広がりつつある理工系出身者の活躍の場」
東京大学先端科学技術研究センター 4号館講堂
隅蔵康一氏
司会 それでは、次に移らさせていただきたいと思います。次は、「知的財産マネジメントの現状と将来像」で、講演者は東京大学先端研・助手の隅蔵康一さんです。よろしくお願いいたします。
以下、隅蔵康一氏講演
ご紹介、ありがとうございます。隅蔵です。私は以前から、主に理工系の大学院生のかたや、ポスドクのかたに、知的財産マネジメントに関わる仕事というのはどのようなものか、ということを、ご紹介する機会があったら良いな、ということを思っていました。
たまたま去年の秋くらいに、榎木さんといろいろ雑談をする機会があり、そのときにこのメーリングリストの話になりました。榎木さんの方も、拡大した、大きなオフ会のようなものをやってみたいというご意向があるということがわかりました。それからどんどん話が弾んで、このようなシンポジウムが行われることになりました。準備などの段階は、ほとんど榎木さんがやってくださいました。私は先端研にいるものですから、たまたま先端研は昨年、このような建物が建ちこのような講堂ができたので、単に会場をとるということをしただけです。あとは全て榎木さんがやってくださったということで、こんにちに至るわけです。
皆様のお手元に、レジュメを配布させていただきました。話のストラクチャーとしては、これに沿って行わせていただきたいと思います。
知的財産権というものが、どういうものかということですが、特許権や実用新案権、商標権、意匠権、著作権があります。少し変わったところでは、種苗法で保護されている、植物新品種ですとか、特別な法律で保護されている半導体回路配置などがあります。あとは、不正競争防止法によって規定されている、営業秘密といったものが知的財産にあたります。
それで、昨今は大学から出る発明 -これは主に特許権で、これから先の話は知的財産権とはいっても、特に特許権に絞った話をしていきます- 大学から出た発明を、うまく権利化して、マネジメントしていくことが必要だということが、いわれるようになりました。そういった話も97年頃から、検討されるようになりました。
要するに、技術移転オフィスというものが、大学の研究者の発明を権利化して、産業界にライセンスします。そのロイヤリティを回収して、また研究費として還元するという仕組みをつくることによって、大学の研究、そして産業界を活性化していこうという動きが出てきたわけです。
最近は12の大学で技術移転機関、テクノロジー・ライセンシング・オフィスが整備されました。その他、多くの大学で、そういったものの設立が準備されているという状況であります。去年の11月の日経産業新聞にその現状調査が報道されました。大学の後押しが積極化して、新産業を育成する制度がどんどん整備されてきている、ということです。
特許の流通ということに関しても、このようになっています。特許を仲介する専門家に検定試験・資格制度を導入するとか、弁理士も増員して競争を促そうといったような動きもあります。
また、大学から出た発明について、単に権利をライセンスする、つまり特許権を使用して良いよ、という許諾をするだけではなく、その大学の発明をもとに、新しく会社を起こして、アントレプレナーを養成して、会社を創り出す、ということをサポートしようという気運も高まってきております。
実際に、いくつか大学の発明に基いた企業というものは、もうすでに日本でも創られています。また、今国会、この間2月8日の閣議で決まりましたが、産業技術力強化法案というのものを国会に提出します。その中で、TLOの支援や、特許の取得の促進、共同研究・受託研究に関して、やりやすくする仕組みをつくろう、といったことが話し合われています。
特許に関連する職業の一つとして、今後有望なものに、技術移転オフィスでライセンス、あるいは発明の発掘などに携わっている人々、いろいろな呼び方がありますが、主としてライセンス・アソシエイトと呼ばれるものがあります。この人がどういった仕事をしているかですが、先ほど説明したような、1番基本的なファンクションとしては、大学の教官の発明を発掘して、それを特許化するかどうか評価して、決定します。そして、産業界に移転する、マーケティング活動といいますが、そのようなことをします。
単に出た成果を渡すというだけでなく、もう少し研究の最初の段階からも関わります。企業と大学の共同研究を行って、どの相手どうしをパートナリングさせたら良いかということを考えます。共同研究相手のパートナリングをして、その共同研究の契約を支援する。また、スタートアップ企業・ベンチャー企業が大学の発明をもとにできあがる場合に、そういったスタートアップ企業の設立を支援します。そのようなことも、技術移転オフィスの重要なファンクションであります。 日本では、1番上のファンクションだけが強調されている傾向があります。ですが、欧米、特にアメリカの技術移転機関をみますと、この2番目、3番目の機能というものも、非常に重要な機能であります。
知的財産マネージャーというものは、私が適当に、ということもないですが、このあたりの人たちをくくって、知的財産マネージャーと定義して呼んでいます。 それにはどういった人がいるのか、ということです。技術移転オフィスの人の他に、特許化するときには、先ほども出てきました弁理士が、特許の明細書を書きます。実際に発明を具体化するわけです。
その他に、スタートアップ企業を創りましたら、その経営者がいます。あるいは、今後のスタートアップ企業の可能性を判断して投資する、ベンチャー・キャピタルもあります。あるいは、特許というものは自分の独占権ですから、その独占権を誰かが無断で使用してしまった場合には、特許訴訟になるわけです。そのときには、裁判官や弁護士といった人も、この大学から生じる知的財産の育成に関係してくるわけです。
これらが知的財産マネージャーというものであります。今日ここにいらっしゃるかたは、多くの割合のかたは、ご自分でどこかの研究室に所属して、実験系の研究を行っているかたが多いのではないかと思います。そういった実験系の研究を行っているかたは、-私も昔はそういったことを行っていて、同じように考えていましたが- ともすると、こういった知的財産のマネジメントというものは、要するに、主役として、大学で手を動かして発明する研究者がいて、それらをサポートする脇役、それが知的財産マネージャーなのではないか、というような捉え方をしている場合が往々にしてあると思います。
今日は、そういった知的財産マネージャーは本当に脇役であるのか、実際にはそうでない、ということをまずはお話したいと思います。
まず弁理士というものが、どういった仕事をするかについてです。特許出願をするときに、特許の中では、請求項、クレームという部分があります。その特許がどういったものに対して権利を主張しているのか、ということが書かれているわけです。
大学の研究室から生まれる研究の成果というものは、もちろん論文で発表する段階では、何が新しいのか、という新規性ということに関しては、良く調べて論述されています。しかし、それが産業界でどのように使われるか、実際にどのような権利を主張しているのか、どのようなところに対して権利化をするのかというようなことは、単に研究成果や論文を見ただけではわかりません。もやのように実態がつかないものなのですね。それをクレームで表現することによって、権利の範囲を確定して明確化するということが、弁理士の仕事です。それによって、発明が、市場で取引可能なかたちになるわけです。
ということで、弁理士の仕事というものは、発明の市場における価値を創造する、クリエイティブな仕事なのです。単に、ラボの研究者の下請けをして、特許を出願しているだけではない、ということです。
もう少し、これの補足として、私がお世話になりいろいろと教えていただいている方の1人に、清水初志さんというかたがおられます。このかたは今、つくばで特許事務所を構えて、実際にこういった特許出願を行っているかたです。ここの先端研の客員教授でもあります。
そのかたの書いた、「知的財産からみたバイオビジネスの展望」(ファルマシア34巻1226-1231頁、1998年)という文章を見てみます。近年、特許法改正によって、この特許権の及ぶ範囲を示すクレームをいかに表現するかで、特許権の価値の大半は決定されます。このクレームは、最近の特許法の改正により、いろいろなタイプの知恵を絞ったクレームが出されます。その場合に、それがきちんと審査の対象になるということが明確になってきました。弁理士のかたが知恵を絞る、そして創造的なクレームを書く余地が、どんどん増えてきている、ということを言っておられます。
ところが一方、日米の比較をしてみると、オリジナリティを表現する力、という意味では、こういったクレームをつくるときに、概念抽出力と表現力がひじょうに重要です。日本では残念ながら、なかなか、発明者自身の産業界へのプレゼンテーション能力がそんなに充分ではありません。そういった能力を磨くチャンスが限られています。このようなことを清水さんは文章の中で言っておられます。
一方欧米では、この点については、明確な違いがあります。こういった市場性の判断を、研究者自身が行うと同時に、研究とビジネスの両者の経験が蓄積するように養成されたマネージャーに権限が集中しています。それで、研究の真価が素早く見抜かれているということです。
今後は、こういったクレームにおけるプレゼンテーション能力が、重要である。そういった能力を身につけた人、要するに技術の中身が良くわかって、プレゼンテーション能力もある、という人ですね。そのような人が、弁理士として、発明の市場での価値に磨きをかけることに活躍することが必要なのではないか、ということを、この文章では言っています。
それが弁理士です。要するに、弁理士の仕事はクリエイティブな仕事なのである、ということがわかっていただければ幸いです。
次に、技術移転機関で、発明の発掘・評価、産業界への移転といったようなことを担当する、ライセンス・アソシエイトです。
ライセンス・アソシエイトが実際にどういったことをしているか、です。ラボ研究者、ここで研究者といいますのは、研究者と知的財産マネージャーという分け方をした場合のことですね。研究者といいますと、私自身も知的財産権の研究者ですし、実際に発明をしない研究者もいるわけです。ですから、実際にラボにいて手を動かして発明をするような研究者は、私の今回の話の中では、仮にラボ研究者というように名付けています。そのラボの研究者と、緊密にコンタクトを取って、研究成果の中から発明を見出します。
もっと大きくは、産業の芽を見出し、新規な産業を創生する。この具体例というものは、次にニールス・ライマースの例で述べます。あとは、技術開発に適したライセンス先の企業を探して、発明の社会への還元を可能にする、ということです。それがライセンス・アソシエイトの仕事であります。
実際に、日本では、まだ本当のライセンス・アソシエイトといえるような人は、何人かしかいません。欧米では、欧州は正直いって良くわかりませんが、アメリカにはそういったかたがたくさんいます。その1番最初のライセンス・アソシエイトの父、あるいはもうおじいちゃん、というような存在の人が、かのニールス・ライマースという人です。
私は、たまたまおとといの3月2日に、朝から晩まで、この、今来日しているライマースさんと一緒にいて、いろいろインタビューをする機会がありました。そのインタビューの結果自体は、多分、今年の年内くらいには、技術移転の著書として、発表しようと思います。そのライマースさんはまだご存命のかたで、66歳くらいのかたです。このかたが、技術移転の開祖というべき存在なのです。
このかたは、スタンフォード大のオフィス・オブ・テクノロジー・ライセンシングを始めたかたです。スタンフォード大のホームページを見ると、このオフィスの歴史が書いてあります。今は20人もライセンス・アソシエイトがいるオフィスですが、最初はこのワン・パーソン・パイロット・プログラム、ニールス・ライマースがやっていたパイロットプログラムだけから始まりました。そのようなことが書かれています。
このニールス・ライマースという人は、もともとこの人もエンジニアでして、企業に勤めていました。その後、スタンフォード大学の、政府からのグラントを配るという、事務局のようなところに移りました。彼は企業にいた経験と照らし合わせ、大学の発明の中には、ずいぶん、今は単なる研究成果で終わっているけれども、産業界に移転すると、ひじょうに良いものになる発明がたくさんある、ということに気付きました。それでテクノロジー・ライセンシング・オフィスというものを創りました。
この人は、スタンフォード大のOTLを創っただけではありません。70年にOTLができます。その後、有名な、コーエンとボイヤーの遺伝子組換え特許というものがあります。その技術を発掘して、産業界にライセンスするということを行いました。
最初、コーエンとボイヤーが、ハワイで開かれた学会で、顔を合わせました。コーエンはプラスミドの研究をしていて、ボイヤーは制限酵素の研究をしていました。たまたま食堂で顔を合わせて、両方の研究を合わせると、遺伝子組換え技術ができるだろうという話になりました。これが、2人の研究成果を合わせるとできるだろう、ということで、コーエンとボイヤーは、共同研究を始めました。すぐ、半年後くらいで実験結果を得ることができ、この成果を論文として発表しました。
そのあと、ニューヨーク・タイムズにその技術がたまたま紹介されました。それをニールス・ライマースが見つけました。これは良いのではないか、これを特許化して、産業界に広めよう、と彼は考えました。特許化して権利化するわけですが、単に権利化するだけではなくて、比較的安い、低い値段で、幅広くライセンスする。そうすれば、バイオ産業というものが活発になって、1つの大きな新しい産業ができるのではないか、と考えました。それでこのコーエンを説得しにかかったのです。ただコーエンは、自分の発明で特許なんかを取るのは嫌だ、と言ったのです。ですが、ライマースさんは一生懸命説得して、特許出願をして、いろいろな企業にライセンスしたわけです。
それで、80年に特許もおりて、81年にライセンスを始めたのです。97年に特許の期限が切れるまでに、総額2億ドル以上のロイヤリティを、スタンフォード大学のOTLにもたらしました。これが、多分、アメリカの大学における産学技術移転の歴史の中で、ナンバー・ワン・ヒットではないかと思います。 これに触発されて、ボイヤーはジェネンティックという会社を創りました。そのジェネンティックが、実際に良い成果を挙げているということで、投資家の目もバイオに向きました。そしてバイオ産業が次第に形成されていった、という歴史があります。
スタンフォード大学のロイヤリティ収入は、96年度、4400万ドルから上がっていっています。99年度はこの特許が切れたので少し下がっています。少し細かい話ですが、どうして97年に特許が切れても、まだ、コーエン・ボイヤー特許による収入が入ってきているのか、というと、特許が切れる前に作ったものをまだ売って利益が得られているからです。そのぶんが入ってきているわけですね。
このようにライマースの手助けによって発明が産業を作りました。コーエンとボイヤーだけでは、バイオ産業の礎となることはできなかっただろう、という意見があります。もちろんライマースだけでもできないわけですけどね。彼は実際に自分で発明はしませんから。本当にライマースさんというのは、こういったいろいろなことを達成された方です。しかし全然偉ぶらない、いいおじいさんという感じで、われわれも学ぶところが多いです。
要するにここで言いたいことは、ラボの研究者、発明者と、知的財産マネージャーというものは、どちらが主でどちらがサポートというものではない、ということです。発明の創出と産業化ということにおいて、コンプリメンタリーな、相互補完的な機能を果たしている。どちらが欠けても、大学で生じた発明の産業化はできないのではないか、ということを言いたいわけです。
ちなみに、このライマースさんというかたは、こういった技術移転事業を行う傍ら、バイ・ドール法という、1980年にできた法律 -詳細は省きますが、アメリカの大学から産業界への技術移転というものを円滑に行うために、ひじょうに重要な役割を果たした法律です- その法律の制定に関わりました。この法律を提出したのは、議員のバイさんとドールさんというかたですが、ライマースさんらも、他の議員などに成立を働きかけました。
あと、彼はMITや、カリフォルニア大の技術移転機関にも出向し、そういったところの技術移転機関の活性化にも貢献しました。スタンフォードもMITもカリフォルニア大も、アメリカではトップの、ひじょうに成功した技術移転機関になっています。あと、彼は、Association of University Technology Managers、AUTMというものを創ることにもかなり貢献しました。これは、毎年年次集会が開かれて、今年も、先週、私はアトランタに行ってきました。そのように、今、AUTMは、アメリカのみならず、世界中の大学の技術移転の担当者、あるいは研究者が集まる団体になっています。
ちなみに今、日本でも、日本版AUTMというものを創ろうという動きがあります。この先端研、あるいは国際産学共同センターが中心になって、そういった連携組織を創ろうということをやっている最中であります。
時間がかなり押してまいりましたので、ちょっと手短にいきます。
あともう1つ、あと5分くらいでまとめますが、誤解を解きたいと思うことがあります。この産学連携の強化によって、大学は営利企業のようになってしまうのか、という懸念の声がよくあるのです。これについては、コロンビア大学のMPEG-2への関与の例を挙げることによって、そうではないということを示したいと思います。
MPEGとは何か、といいますと、Moving Pictures Experts Groupの略です。1988年に発足した動画圧縮技術の標準化に関する、国際標準をつくる検討組織名です。ISOとIECという標準化団体の、合同専門委員会になります。MPEG-2というものは、それの2番目のものです。動画とそれに付随する音声の規格であるということになります。
これが標準化されたことは良いのですが、これにはたくさん特許が関わっているのです。何十個も必須の特許があります。この技術を使いたい人は、それの特許権者1人ひとりに許諾を得ないといけないわけです。
それではなかなか技術の普及が進まないだろう、ということになります。大体、標準化された技術で、多くの特許がかかっているときはライセンスが難しいのです。このMPEGのケースでは、その困難さを解消するために、こういったライセンス会社を創ったわけです。要するに、全ての特許をMPEG LAという会社にプールしておいて、ライセンスを受けたい人に、サブ・ライセンスを与えよう、と。そのライセンス収入を、1つの特許ごとに還元していこうという仕組みをつくりました。
こういった有限会社が創られたわけです。この特許を持っている会社というものは、ソニーやフィリップスや富士通などの、本来競合するようなエレクトロニクス企業どうしになります。そういった、本来競合するところが、どうしてこのように協力して、このような組織を創れたか、ということが問題です。私はこの間の1月に、コロンビア大学などに行って、いろいろその過程を調べてきました。やはり、コロンビア大学という、非営利団体・非営利機関が入っていたことの役割がかなり大きかったわけです。
現在では、この同じスキームを利用して、他の技術、IEEE1394いったコンピュータの接続に関する技術や、他の特許プールのライセンスも行っています。 この会社を創るときに、誰が会社のルールづくりのドラフトを書くか、ということになったわけです。それは、ソニーでもフィリップスでもない、コロンビア大学がやるのが良いだろう、ということで他の企業の同意が得られました。コロンビア大学の技術移転機関である、Columbia Innovation Enterpriseというところが中心となって、ルールづくりを進めました。このような会社を創るのに、イニシアティブをとっていったわけです。それで、この会社が可能になったわけです。
ここにも書いておきました。こういったパテント・プールのような、社会的に意味のあるインフラを作り上げるときに、大学のような特許を保持する非営利機関の存在は、営利企業を1つにまとめるためのコアとして機能することができます。標準化された技術の普及に貢献するわけです。大学の発明を特許化してライセンスするという活動は、単に大学にライセンス収入がもたらされるということだけではありません。それ以外にも積極的な意義が存在します。そして、大学の発明がライセンスされることによって、大学が営利企業のようになってしまうのではありません。むしろ逆で、大学は非営利機関としての特性を生かして、産業界の求心力となる。そして、このように有用なインフラを形成することに貢献するのではないか。これらが、MPEGの事例から得られる仮説であります。 このようなことで、知的財産のマネジメントを行うということは、単なるサポートではないし、単なる手続き的なことを行うというだけでもありません。社会の中で、インフラを形成することに、ひじょうに大きな貢献をすることができます。新規産業を創ることにも貢献できます。ひじょうにクリエイティブな仕事なのであります。
次の話は、このような知的財産マネージャーとして、どのような人材が求められているのか、ということになります。今日本では、本当に人材不足です。それぞれみんなTLOという機関だけはできても、中のヒューマン・リソースがない、ということで、みんな困っています。
ではアメリカはどうなのか、ということになります。これは、検索エンジンで調べていただいて、アメリカのいろいろな大学の技術移転機関のホームページに行っていただきまして、そこで、スタッフの欄、どういった人がいるのかというところを見ていただくと、大体においてスタッフのキャリアや学位が載っています。
例として、NIH(米国立衛生研究所)です。NIHも非営利機関でアカデミック・セクターの一つです。もちろん正確には政府機関ですが、大学と似たようなものであるということで、NIHのページを例にとっているわけです。ちょっと時間がないので細かくは見ませんが、多くがPh.D.を持っており、ケミストリーやバイオ・ケミストリーなどの複数の分野を経験した人も多くいます。このPh.D.と、MBAという人もいますね。さらに企業経験をかなり積んで、今オフィス・オブ・テクノロジー・トランスファーで、NIHで生じた研究の技術移転を行っている、という人もいます。スティーブ・ファーギュソンという人は、私もよく知っている人ですが、MBAと、あとケミストリーのデグリーも持っています。他にPh.D.の人もいます。Ph.D.かつJ.D.といった、ダブルメジャー・マルチメジャーの人材が技術移転機関にはたくさんいるということです。
私が思うのは、日本もそのようになっていくと良いのではないか、ということです。私は、こういった先端研の知的財産部門というところにいて、研究や活動をしていますと、日本全国からいろいろなかたが訪ねてきます。今、ドクターコースにいて、ラボワークをやっているのだけれど、ゆくゆくは弁護士や弁理士になりたい、と言って訪ねてくる人もいます。ひじょうに心強く思っているところであります。
ただ、今の日本の現状は、さほど楽観視もできません。ドクターを取ったあと、またMBAのコースに行き直すとか、いくつかのデグリーを取るといったようなことを、全ての人に要求することはできないのです。
ではどのようにして、この技術移転機関のマネージャーになるような人材を育成していったら良いか、ということです。私の考えと比較的近いことを言っていたのは、このネイチャー・ジャパンのページで、「ポスドク1万人支援計画」の記事です。
現在、大学院生が増えて、ポスドクの数も増えています。その先の行き場がないとすれば、その中にいる当事者としては困ったことでしょう。しかし、特定の分野で博士号をとったくらいの技術的なバックグラウンドを持った人たちです。その人たちが、例えばライセンス・アソシエイトや弁理士といった、知的財産マネジメントに関わる職業について、どんどん積極的に活動していく良い機会なのではないか。そのようにも捉えられるのではないかということが、私の考えであります。
Nature Japanの文章でも、今のポスドク支援計画のことに触れたあとに、新たな進路として、こういったTLOやベンチャー企業を興すとか、技術のわかる弁護士といった人が求められている、という話が書いてあります。まさにその通りなのではないか、と思います。 私の話の結論としては、日本の大学院生やポスドクのかたの、今後の活動に期待するということです。しかし、単にそういった概念的な話だけをしていても仕方がないので、具体的なアクションプランをここで示さなければならない、ということです。
もしここにいらっしゃる方々の中で、関心のあるかたがいらっしゃいましたら、4月以降、1週間に1回なのか、1か月に1回なのかわかりませんが、勉強会のようなものを開催したいと思っています。どういったかたでも結構です。知的財産権や技術移転に関して、主に理工系のバックグラウンドがあるかたを集めたいと思います。実際にその方々が、みんな将来技術移転をしなければならない、ということではありません。
そういった勉強会をすることによって、どうしたら理工系のバックグラウンドがあるかたに、システマティックに知的財産権というものを教育していけるか、ということのモデルケースにもなるのではないかと思います。私自身も理工系のバックグラウンドがあって、ドクターまではバイオをやっていたわけで、それから独学で知的財産権を勉強して、今知的財産権部門の方にいるのですが。参加者については、ご所属や、大学院生であるとか企業のかたであるとか、そのようなことは問いません。このような新しい試みを、ちょっとボランタリーな組織としてやっていこうと思っております。ご関心のあるかたは、このあとにでも声をおかけください。これが、私のとりあえずの結論でございます。
講演は以上です。
司会 どうも、ありがとうございました。今のポスドク、ポスト・ポスドクといいますか、その後のひじょうに厳しい状況があります。新たな世界として、弁理士と、ライセンス・アソシエイトなどを、選択肢の中に入れて良いのではないか、と思います。それでは、質疑応答をさせていただきたいと思います。質問のあるかたはいらっしゃいますでしょうか。
質問 所属と名前は申し上げた方が良いですか。質問を申し上げます。お話を伺っていて、知的財産マネージャーがクリエイティブな職業である。また、大学はいろいろな技術を集約する、技術マネージセンターとしての役割を持っている、という話がありました。では、実際に、大学で求心力を持っている人が、知的財産マネージャーと、大学の間を取り持つとします。具体的に大学は、どのようにアクションを起こしていったら良いのでしょうか。ちょっとわからなかったので、そのあたりの説明をお願いします。
隅蔵 どうもありがとうございます。ひじょうに良い質問だと思います。現在、大学の技術移転機関の活動というのは、大学とは独立に勝手にやっているわけではありません。実は、いくつかの法律ができました。98年の大学等技術移転促進法や、昨年度の、産業技術力強化のための法律などです。いろいろ、大学からの技術移転を活性化していこうという流れの中でやっています。もちろん、技術移転といっても制度上の制約を受けるので、大学の、例えば事務局などと連携しなければできない部分もあります。そういったことについては、問題点はまだ多々あります。それを解消しつつ、法律面も変えつつ、やっているというところが現状です。大学技術移転機関の活動は、これからどんどん認知されていくのではないかと思います。また、大学の側との連携も、どんどん取れてきているところであります。
司会 他にいらっしゃいますでしょうか。
質問 お話の中で、例えばアメリカではNIHのようなところで、新しく開発された知識や技術を、専門的に特許化してくれる部門があるというお話でした。日本の大学で、そのような部門を備え、大学内でしっかり持っているようなところはあるのでしょうか。あともう1つは、生化学のうえで新規タンパクの特許を取ることがあると思うのですが、その場合もやはり費用が結構かかります。煩雑な手続きも必要です。それをするために、やはり自分の研究室の研究費用ではちょっと賄えなくて、例えば共同研究をしている企業と組むなどしています。もし本当に、大学の方で研究室での成果を無料で特許化し技術移転してくれる部門があれば、もう少し特許の取得が促進されると思います。そのあたりについて。
隅蔵 まさに、今おっしゃったような、研究室の人に代わって、特許出願までの橋渡しをしたり、費用を持つといったような組織があります。技術移転機関、大学のTLO、テクノロジー・ライセンス・オフィスと呼ばれているものです。これは、今正式には12の大学で整備されていて、文部省や通産省の承認を受けているものがあります。ちょっと現状の話ははしょったので、わかりにくかったかもしれません。また、より多くの大学が、それを創ろうとしているところなのです。日本の現状というのは、その組織自体はできています。けれども、それを担う、ライセンス・アソシエイトの人材などが足りない。そういったことが、私がこのような情報提供を行おうとするきっかけにもなりました。そういった組織自体はできている。あとは人材が必要であるということです。あと、人材と、本当に必要なことは、アメリカでもあまりうまくいっているとはいえませんが、TLOどうしの連携を保つということです。それに関して、今、日本版AUTMというものを創るための試みがあります。文部省から助成していただいて、いろいろ、どのような方法でやっていったら良いかということを考えています。意見交換会などもしています。その中で、地方、東京や関西圏以外のところは、弁理士さんの数も少ないという問題があります。いろいろそれぞれの地域・大学で得意分野があると思いますので、そのノウハウを共有しあって、アウトソースのネットワークのようなものをつくりあげていく。単なる組織ができたということでなく、それによって、日本全体で、人材も充実させて、連携も充実させて、これからどんどん活性化していかなければならないという状況であります。
質問 どうしてこれは、大学単位でやっているのですか。どうして大学単位で、TLOの活動をしているのですか。
隅蔵 それも良いご質問です。例えばNIHをみますと、ライセンス機関というものがNIHで1つだけあります。あと、オフィス・オブ・テクノロジー・ディベロプメントという、産業界との共同研究や特許出願自体を扱うところがそれぞれのインスティチュートにあります。NIHといっても、何十、いくつものインスティチュートがありまして(たとえば、ナショナル・インスティチュート・アレルギーアンド・ディジーズなど)、それぞれに研究を行っているのです。それを日本に当てはめて、日本でも、ライセンス機関は単に1つだけで、あとはそれぞれの大学で、特許出願や共同研究を扱うオフィスを持つ、といったようなモデルも考えられます。これはですから、どのくらいの規模のところに対して、1つのライセンス機関が良いかということになります。あまり多すぎても、単にホームページに技術を並べて、展示するだけの機関になってしまいます。あまり小さすぎても、企業としてはどこにコンタクトして良いのかわからない、ということになります。適切な大きさというものが、必要だと思います。そのあたりを、今後連携して、考えてゆかなければならない、ということが現状です。
質問 有望な発明はでてくるでしょうか?
隅蔵 種はありますね。私どもの先端研と連携してやっている、東大の技術移転機関である先端科学技術インキュベーションセンターというものがあります。そこでも、98年に始まって、特許出願したものが1年間だけで50件あります。これは、最初のお金もない段階ですから、かなり選りすぐって、50件出てきました。私は直接発明の発掘を行っているわけではありませんが、最近、担当者に聞きますと、いろいろなところからたくさん発明が出てきて、毎日休む暇もないといった状況です。日本も大分、ポテンシャルというものはかなりあると思います。
質問 発明の発掘ということは、具体的にはどのようなことですか。
隅蔵 発明の発掘それも良い質問です。アメリカではほとんどの大学で、報告義務があります。雇用契約の中で、発明をしたら大学に報告をしなければならない、ということがあります。日本では、それがうまく機能していません。もちろん、発明した先生のサイドから電話などがきてくれば良いのですが、実際には、ライセンス・アソシエイトが自分のネットワークを使ったりして、足で集めるといった状況です。そのあたりも、今はあまりシステマティックではないということもあります。ただ、今の状況で日本で、報告義務規定が整備されて、何百・何千もの発明が大学のTLOに来たらどうなるか。それがまさに、人材がいないということに直結する問題です。そんなに捌ききれないということになります。ということで、このような技術移転の問題に関心を持ってくださるかたを、1人でも増やすことが急務であります。それで、このような場で講演をしている、というところに落ち着くわけであります。 質問 どうもありがとうございました。
司会 先ほど手を挙げられた、後ろの方のかた。
質問 僕と同じ学科の先生で、たまたま東工大のTLOで、初めてベンチャー企業を立ち上げた先生がいらっしゃいます。お話を伺うと、産業化ということではなくて、たまたま精度の良い装置が欲しいという理由で立ち上げたということです。先生のお話と比べて、教授側の意識がすごく低いかな、という気がしました。そのあたりについては、どのようにお考えでしょうか。
隅蔵 もちろん、実際に発明をなさる先生がたに、こういった技術移転の活動や特許化をすることの意義を伝えていくということですね。それも、われわれ先端研の知的財産権部門や、キャスティなどの技術移転機関の役割であると思います。その先生は、精度の良い装置が欲しいということで、開発されて、結果論として会社を興されたということでした。まあ、きっかけはいろいろであって良いと思います。別にみんな同じ1つの方向に向かうという必要はないわけです。きっかけはいろいろありながらも、産業界で活用できるものは活用する、というシステムができると良いのではないかと思っております。
司会 最後に1つくらい。では、最後に私から質問です。弁理士は確かに魅力的です。しかし、私の知人に、弁理士を志して5年受け続けて、落ちつづけて浪人生活のようなかたがいらっしゃいます。そのあたりの難しさのようなものが壁になっているような気がします。今後の展開はどうなるのでしょうか。 隅蔵 弁理士の数自体は、今後どんどん増員されていくということです。増員されたからといって、みんなが合格できるわけではないです。確かに今、5年くらいやるかたも多いようですけれども。もちろん、人によっては、勉強する期間は、ずっと勉強だけに集中したい、というかたもいらっしゃるでしょう。けれども、1つのアイデアとしては、将来弁理士を目指すかたで、弁理士の卵のようなかたに、技術移転機関でうまく、パートタイムで雇用する。そこでオン・ザ・ジョブで、仕事もしていただいて、それが自分の勉強にも結びつく。そのようなシステムができると良いと思います。
司会 どうも、ありがとうございました。それでは、いまから10分ほど休憩させていただきたいと思います。後ろの方に、簡単な飲み物等ありますので、皆さんご利用ください。それでは、14時55分ころに再開します。
隅蔵氏のセクションは以上。
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